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Django Reinhardt
(1910-1953)




◆その魅力
 ジャンゴの音楽の素晴らしさは、その発する音全てに深い意味があるということ。ドラマチックな展開、そしてたった一度のここぞという場面での感極まる超絶フレーズ。 これをけしてハズさない。これほどのテクを持っていたらテクのオンパレードで聴衆を魅了することも容易だったはずなのに、音楽的に深い意味を持つ、それでいて素朴な音選び、 一音一音の余韻までもが深い意味を持っている。

 ジャンゴの最大の魅力はギターという楽器の型を打ち破る信じがたい奏法から生まれるサウンドでしょう。扇風機の風音の如く軽やかできめの細かいコードトレモロ、カナカナ蝉の如く甲高く叫ぶ高音トレモロ、音階を自在に駆け巡るバキバキと切れの良いピッキングなどなど、そのテクニックはSAXにおけるチャーリー・パーカーを凌ぐと思います。ジャズとしてはブルース色が薄くアメリカのものとはちょっと違ったムードが漂っており、特にジャンゴオリジナル曲においてはクラシック色を強く感じます。オリジナル曲にはメロディーの美しさを追求したものと音の不思議さを遊んでいる様なものがあり、ジャズという枠を超えて、偉大なクラシックの作品と同様に色褪せることなく聴かれ続けていくでしょう。ジャンゴはビジネスより音楽そのものを追求する真のジャズメンであり、歳月と共に音楽の本質に迫っていきました。40年代後半あたりからはビバップ色を強め、逝く間際にはピアノコンボで素晴らしい録音を残しています。また、ジャンゴはなんの変哲も無いフレーズを信じられないくらい生き生きと表現するプレイヤーであり、音楽を本質から理解しているプレイヤーです。今は亡き誰か1人の生演奏を聞くことができるとしたら私はジャンゴを選択するでしょう。
(Nobutake Ito)

皆さまからのジャンゴについての寄稿(ジャンゴ没後50年〜ジャンゴに思いを寄せて〜)
 
◆その人生
ジャンゴの生涯の出来ごとについてその時期の録音曲と合わせて書きました。


 1910年1月23日、ベルギーのシャルルロワのジプシー・キャラバンで生まれた。父はバイオリン弾き、母は歌手・ダンサーという芸術一家でした。12歳頃からバンジョーに没頭していた。
 ジャンゴはエミール・サヴィトリー(画家)によりパリの表舞台に紹介され、その後、モーリス・アレキサンダー楽団にバンジョーで参加した。
 ある夜、キャラバン内のセルロイドの造花にろうそくの火が引火し、ジャンゴは左手の薬指と小指に致命的な火傷を負った。その後、猛練習を行いそのハンデをものともしない演奏技術を身につけた。


 1932年、ジャンゴはルイ・ヴォラの楽団でデビューした。この頃からギターを弾くようになる。ゲリーノ(acc)と活動し、ミュゼットにギターソロを取り入れる。
 1934年に結成されたフランスホットクラブ五重奏団のメンバーは、リーダーにルイ・ヴォラ(b)、ジャンゴ(solo g)、ステファン・グラッペリ(vln)、ジャンゴの弟のジョセフ・ラインハルト(rhy g)、いとこのロジャー・チャプト(rhy g)。
 1936年、初の国際的ツアーを成功させ、アメリカのジャズメン(コールマン・ホーキンス、ベニー・カーターetc.)と共演した。憧れのサッチモ(ルイ・アームストロング)とのセッションも果たした。


 第二次世界大戦中はユベール・ロスタン(cl)とドラムスを加えた新五重奏団を組み、パリで活動した。ジャンゴの作曲・アレンジの才能はオーケストラでも発揮された。ジャン・コクトー(詩人)のオペラの作曲を任された(未完に終る)。
 戦争が終わり、ステファン・グラッペリとバンドを再結成し、素晴らしい録音を残す。 1946年11月にデューク・エリントンとのアメリカ・ツアーを行う。演奏は好評だったが、カーネギー・ホールの大舞台での大遅刻などなどによりアメリカでの評価は期待以下だった。
 1940年代後半はビ・バップ・ジャズ色を強め、エレクトリック・ギターで演奏する機会も増えた。


 自分がもはやジャズの主流の中心人物でないことを感じつつも彼の音楽への探究心は演奏魂を駆り立て、パリのクラブ・サンジェルマンで若いジャズメンと夜な夜なセッションを行った。
 以前ほど音楽一辺倒の生活ではなくなったジャンゴは、残りの人生をセーヌ川のほとりのサモアで釣りやビリヤードをしたりして過ごした。
 1953年5月16日、激しい頭痛に襲われ、病院に担ぎ込まれたが戻らぬ人となった。43歳だった。



[ジャンゴにまつわる逸話]
ホテルにて...
 一晩中風呂の水を出しっぱなしにして騒動を起こした。キャラバンでは常に川の音が聞こえていたので、それ無しでは眠れなかったとか・・

賭博...
 メンバー内でのギャラの配分にはうるさく、たった何フランかで大揉めをしたかと思うと、その晩賭博にてギャラの何倍もの負けを被ったりしていたとか・・

プライド...
 ある番組でバンド名を「ステファン・グラッペリとホット・フォー」と紹介され、青筋をたててステファンを睨みながら演奏をしたとか・・

案外小心者?...
 初めてオーケストラの指揮を任されたとき、緊張のあまりカチカチになってしまい周りに居た人につつかれてやっと舞台に上がったとか・・

サル...
 サルを飼っていたらしい・・ そのサルは2本指でセルマーを弾いたらしい・・(うそ)

おふざけ...
 ホテルで素っ裸でベッドに横たわり、何度もメイドを呼んでその反応を楽しんでいたらしい・・

(Nobutake Ito)
 
◆ジプシー・スウィング
ジャンゴのスタイルをよくGypsy SwingとかGypsy Jazz、Hot Club Styleなどと言ったりしますがジャンルで言うとジャズなんでしょうか?確かにお店でジャンゴのCDを探す場合ジャズコーナーのギターのところにある場合が多いようです(大きなお店じゃないとなかなか置いてません)。でも普通のジャズとはちょっと違う風に聞こえるかもしれません。一般的にはギター、ウッドベース、バイオリン、アコーディオン、クラリネット等のアコースティック楽器によるバンド構成で、ギターが刻み、テーマの後それぞれの楽器が順に即興演奏して最後にテーマをやって終る、というのがイメージされると思います。普通のスウィング・ジャズとちょっと違う点はギターがソロイストとして重要な役割を果たしていることとバイオリンの存在、あたりかと思います。さて、おおざっぱに言うとジャズ=即興音楽ということなのですが、ジプシー音楽と言えば超絶技巧・即興・ノスタルジック・メランコリック・・・などのキーワードがよく出てきますね。"即興"というのは元々ジプシーに根付いたスタイルなのかなと思います。即興に対する根っこの方の考え方はいわゆるジャズ(モダンジャズ)とはちょっと違う気がします。超絶技巧という点につながるのですが即興と言ってもモダンジャズのように代理コードの使用など理論的解釈からの即興(またはインプロビゼーション)ではなく気持の高まりからくる爆発的な音の洪水、巧みな表現のし方からくるものと思えます。簡単に言うと元の旋律が3連符だったところを即興で4連符にする、元がただの全音符だったところをトレモロにするというようなことです。ジャンゴはジプシーの伝統的な超絶技巧を備えた上にモダンジャズの解釈を得てジプシー・スウィングというスタイルを定着させていったのでしょう(むろんジャンゴにとってはジャズメンとしての成長過程の1部だったに過ぎなかったと思います。晩期にはビバップ的なジャズをピアノコンボの構成で行っており、これはまさしくジャズです)。現代のジプシー系と呼ばれる人達の中にはバリバリにコンテンポラリーをこなす人も見られるし、また勿論ジャンゴとステファンのホットクラブスタイルを継承しているバンドもあります。共通しているのはOホールないしDホールのギターを使用しているというあたりでしょうか。上っ面の話以外に「Gypsyの血が重要なんだ」ということもあると思います。我々Gadjo(non-Gypsies)はGypsyに敬意を払うことを忘れてはいけないでしょう。
(Nobutake Ito)
 
◆ジプシーギターの演奏スタイルの特徴
何をもってジプシースタイルと呼ぶか?ですが、ヒゲをはやしてマカフェリタイプのギターを弾いていれば見た目は100%ジプシーです(笑)。普通のロックやジャズのテクニックでジャンゴやジプシー系の曲を単にアドリブをする・・というのもそれはそれで良いと思いますがここではスタイル=ジプシー系特有の演奏技術・様式について考えたいと思います。
テクニック的には以下の2点ができるといいと思います。

・スウィープ・ピッキング(弦を上から下にダウンのみで弾く。撫でるのではなくガンガンいく。)
・トレモロ・ピッキング(速いオルタネイトピッキングのことです。)

これらは大きな音を生で得るために必要なテクニックであったと思われます。トレモロ・ピッキングの技術は速いフレーズをハンマリングオン・オフを用いずに弾くことを可能とし、しっかりとした輪郭をもつサウンドを実現します。特に8分音符に3連符をまぜる機会が多いのでこれをハンマリングではなく ピッキングで対処できればそこにしっかりとアクセントをつけられるようになります(もちろんハンマリングも必要に応じて使います)。ミュゼット曲(ワルツ系)はこの3連がほんとによく出てきて(CHEZ JACQUETは初っ端から、またBRISE NAPOLITAINEも至る所に出てきますね)恐らくジャンゴを始めジプシー達はここで技術を身につけていったと思われます。3連の直後の音が弦飛びになる場合が多くてギターにはきついです。ミュゼットではこの3連の部分を他の部分より速く、またハッキリと弾くことでアクセントをつけ、独特のスイング感を出すのでなんとかこの感じを出していきたいものです。
ところでこれらのテクニックはアメリカの初期のブルースやジャズでも聴かれるので以下を加えます。

・ブルースフィーリングはあまり用いずディミニッシュ的な解決を基本とする。

これでとりあえず上っ面はジプシースタイルになると思います(言うは簡単ですがここまで到達するのは大変)。さてこの後は「情熱的」「感情的」なプレイができればGOOD!ということになるのではないでしょうか? もっとも正しくは「感情が先に来てそれを表現するためにテクニックが存在する」なのでしょう。如何なる感情が来てもそれを表現できるようにテクニックは磨いておきたいものです。
(Nobutake Ito)
 
◆奏法

随時修正加筆していきます。

●ジャンゴのソロコピー
・J'attendrai (2011/12)


・Honeysuckle rose (2012/01)


・Rose Room (2014/05)


・Swing Niglots(現Note Noire)による再現演奏ライブ(2005) 「Django's Story LIVE」の動画はこちら

●リズムギター

ジャンゴのリズムギターにはオーケストレーションが見える。
特にジャンゴ一人がリズムをやるときは多彩なパターン・音色でドラマチックに展開する。
例えば・・・まずはベースラインと和音の2ビートで促し、ソロがのってきたら和音だけの4刻みに、 そして佳境に入ってきたらダウンとアップをイーブンにして厚みを出して盛りたて、コードリフで応戦、ラストは軽快に スウィングしまくってきっちり締める・・といった具合だ。
で、技術的なことを書きたいところですがまだ研究不十分ということでまた今度。

まずは一般的なリズムギターについて

  1. スウィング
    • 歯切れのよい乾いた音になるよう、手首を柔らかくして素早く振り抜く。
      swing

        
    • いまいちな例・・アップのタイミングが早いとノリが変わってしまう


    • いまいちな例・・アップを入れなくてもなんかノリが違う。手首の返りのタイミングがノリにでる。



  2. ボレロ
    • ジプシースウィングでボレロと言えばこれになる。トレブラント・ボレロが代表曲。というかジャンゴ音源で聞けるのはそれくらい。
      bolero



●ソロ
  1. ピッキング
    • ピックは親指と人差し指で持ち、他の指は軽く握る。手首を手前に少し曲げ、手はボディ等に固定しない。 親指の第一関節は曲げない。握り方は、人差し指は第一第二関節とも曲げ、親指の腹の中央がピックの中央に来るようにする (親指の先っぽがピックから少しはみ出す感じ)。
    • 肘から先の腕を上下する感じから入り、手首の上下+手首の回転へ、腕全体の力を抜いて柔軟に動くイメージ。
      ダウンピッキング後に弦移動する際はまたダウンから入る。
    • 基本的にサウンド・ホールのブリッジ寄りの端あたりで弾く。
    • トレモロ・ピッキング(速いオルタネイトピッキング)
      [mp3]
      4弦単音トレモロ
      5弦単音トレモロ
      コードトレモロ
      高音コードトレモロ
    • スウィープ・ピッキング(アルペジオをダウンのみで弾く)を多用する。
    • 2ダウン1アップコンビネーション
      ダウンピッキングを2回、アップを1回、これを繰り返して タカタタカタタカタ・・とコードや単音を弾く。バッキング時にコーラスの繋ぎ目などでもアクセントとして 用いたりしている。
    • 3ダウン1アップコンビネーション
      ダウンピッキングを3回、アップを1回、これを繰り返す。
      ディミニッシュやオーギュメントのアルペジオに、主にアップから入って用いる。

      [mp3]
      合わせて用いた例(ナポリの微風の冒頭より ソロ:バロフェレ)
       前半の下降上昇フレーズは、下降はトレモロピッキング(速いオルタネート)、上昇は弦移動時はスウィープ(2ダウン1アップコンビネーションになっている)、 後半のディミニッシュの駆け上がりは3ダウン1アップコンビネーション。
  2. フィンガリング
    • 基本的に人差し指と中指のみで行う。アルペジオ的なフレーズでは薬指も使っていると思われる。
    • 指板に対してほぼ垂直に(指を立てて)押さえる。
    • 半音階進行は1本の指をスライドさせて対処する。

      2本指フィンガリングは火傷のハンデとも言われているがシンプルが故に自由度もあり、 可能性を秘めた奏法だと思う。ただしジャンゴは指が長い。
  3. ハンマリングオン・オフ
  4. ビブラート
  5. チョーキング

(文・mp3・動画:Nobutake Ito / selmer#760)
 
◆楽器
セルマー・マカフェリまたはセルマーを愛用していたようです。アメリカ・ツアーに出た時、ジャンゴはアメリカのギターが肌に合わず親友のチャールズ・デラニー(伝記著者)にセルマーを持って来させ「この独特のサウンド、まるでピアノのようなコードの響き、、アメリカのみんなもこれを欲しがるに違いない」と言ったとか。。セルマーギターについてはGuitarsへ
(Nobutake Ito)
 
◆CD
手当たりしだい買いあさったCDからお薦めと聴き所を紹介します。
  1. ACCORDEON 1913-1941
    DISC2の「1.Brise napolitaine」と「9.Ma reguliere」に注目します。ジャンゴは1.ではギター、9.ではバンジョーを弾いていますがスウィープ・ピッキングとトレモロ中心のスタイルで弾いています。とにかく凄い速弾きです。バンジョーではメロ楽器お構いなしに狂ったように弾いています。18才の当時から速弾きで唸らせていたのでしょう。ジャンゴのスタイルはバンジョーの奏法が基になっていると思われます(私はバンジョー弾かないのでよく解りませんが..)。ジャンゴの様に弾くにはバンジョーを学ぶ必要があるかも? 「Brise napolitaine(ナポリの潮風)」の1番目のソロでのスウィープ・ピッキングサウンドも最高です(ソロ:バロフェレ)。この2枚組CDは貴重なジャンゴのミュゼット=ゲリーノ・ジャンゴ・バロの共演が聴けるだけでも超お薦めです。

  2. Django swings Nuages(Django Reinhardt 1934-1941)
    クラシックの作曲家"オネゲル"の「パシフィック231」に因んでいると思われる「Mystery Pacific」に注目します。バッキング→コードトレモロへの変化で蒸気機関車が加速して行く様を、またバイオリンと高音トレモロで汽笛を上手く表現しています。ソロの後半のバンジョー的フレーズは機関車の機械的な動きを表したものでしょう。コード進行は循環(リズム・チェンジ)です。オネゲルの曲の最後は徐々に減速し終着して終るのですが、ジャンゴのはG7からBb9-5に移りスパッと終っています。この曲でも強力なドライブ感を生み出しているジャンゴのバッキングですが、単純になりがちな2ビートリズムをドラマティックで聴き応えのあるものにしています。時にベースラインを弾くことがありますが、一般的なジャズとは違ったクラシック的なライン取りでベースの自然な流れを感じさせます。ソロばかりに目が行きがちですが実はホットクラブサウンドの旨みはバッキングにあり、その技術こそまず学ぶべき重要な要素であると思われます。

(Nobutake Ito)

◆共演者等
ステファン・グラッペリ
 言わずと知れた天才バイオリニスト。ジャンゴ好きという一般リスナー(マニア以外)のほとんどが実はジャンゴよりステファンのバイオリンに魅了されている。ジャンゴとの相性は..人間としての相性はいまいちという話はよく聞くが(ジャンゴは相当わがままだったらしい)サウンド面では奇跡としか言い様が無いくらいのコンビネーションではないでしょうか? その息の合いぶりはビバップにおけるチャーリーパーカー&ディジーガレスピー以上です(楽器の性質上、伴奏&ソロ/ソロ&ソロと掛け合いのバリエーションも豊富だしね)。
 録音聞くと、お互い、音・考えが手に取るように解っていたであろうことがよく解ります。ステファンのフレーズに合わせてジャンゴがコードトレモロを入れたり、またジャンゴのカッティングバリエーションに合わせてソロのニュアンスを変えたり、、しかもそれを音楽的・技術的に高い次元で軽々とこなしてしまってます。
 さて、ステファンのバイオリンソロですが一言でいうと「優雅」、もう一言付け加えて「スインギー」という感じと思います。「I SE'A MAGIN'」という曲の終わりのほうで歌と楽器の掛け合いがあり、♪ジャンゴズマギン〜 でジャンゴはオーギュメントの駆け上がり、♪ステファンズマギン〜 でステファンは同一音をラ〜ラ〜ラ〜と弾いており、お互い自分の特徴を表現しています。アドリブ自体はくるくると回転してよどみ無く心地よくスイングします。別の言い方をするとつかみ所が無く、アドリブのフレーズが印象に残りにくく、同じようなパターン(手癖)になりやすく聞こえます(私の聞きこみが足りんかもしれません)。対照的にジャンゴのアドリブは意表をつくような奇をてらったフレーズなど曲毎に印象的なフレーズを用いていて、今のジャンゴ系ギター弾き達もこの曲ではこのフレーズがなきゃ!って感じでジャンゴフレーズを引用してます。このアドリブの好対照具合もよいですね。
 ステファンの素晴らしいアドリブとしては、37年マイナースイングでのステファンのソロはとても美しい。マイスイートでの白熱ソロなどなど、、数えたらキリがありません。またジャンゴがどんなヘンテコなアイデアを持ってきてもしっかり対応して弾ききってしまう音楽的な懐の広さも持っています。そして驚くことにピアノも上手い。「The Man I Love」などジャンゴのソロでのバッキングは絶妙で、ファッツウォーラー等のストライドとはまたちょっと違ったクラシック色の2ビートでジャンゴのギターをぐいぐい後押ししてます(バイオリンの時の煽られのお返しにも聞こえなくもない?)。一時期別活動となったこともあるようですがこの二人は時代を超えて常に最強のコンビとして君臨していくことでしょう。
(Nobutake ito)
ルイ・ヴォラ
ジャンゴ音楽のベース
 ジャンゴのベースと言えば、やはりフランスホット倶楽部五重奏団の‘ルイ・ヴォラ‘でしょう。ジャンゴの音源があまり良くないので、ベースを聴くのはちょっと大変ですが、よく聴いていると色々な事が伝わってきて興味深いので、ここに一部紹介します。
 ヴォラのベースは、現代のジャズのベースのスタイルとはかなり違っています。現代のジャズベースは、遅い曲は音をグーンと伸ばして「まったり」と弾き、速い曲は最低音部から高音部まで駆け上がるように激しくスイングするのが主流ですが、ヴォラはかなり限られた音域で、2ビートを基本として弾いています。当時のスタイルだったからと言ってしまえばそれまでですが、それ以外にも理由があるようなのです。
 ヴォラは、ガット弦を張ったベースを弾いています。ホット倶楽部の写真を見ると、ベースの4弦だけが白く写っているのが分かります。ガット(動物の腸を乾かして撚ったものを樹脂で固めて作った弦)は1〜3弦までがプレーンで、4弦は3弦に銀メッキした銅線をワウンドしてあるのが一般的です。ガットの3、4弦はかなり太いのですが、弓で弾かないかぎりピチカートではほとんど鳴りません。また、クラシックのコントラバスをそのまま使っていたと思われ、弦高もかなり高めと思われます。動画を見ると、クラシックのように「はじき上げ」ぎみに弾いています。ただし、ガットはテンションが柔らかいので、指にそれほど負担はなかったと思いますが・・。つまり、演奏としては1、2弦を主に使った かなりシンプルな音選びを余儀なくされたのではないでしょうか。
 また、ワンマイク(それもそうとう性能の悪いもの)で録音していたため、うしろにいるベースとしては(また、ジャンゴ親分が前にどっかと座り、ガガガっと大音響で弾いているわけだから)よほど頑張って弾かなければならなかったのではないでしょうか。
 以上のような理由からか?非常にしっかりとした、シンプルなベースが聞こえて来てそれが、ジャンゴの音楽によく調和し、とても気持ちがいいのです。ただし、ヴォラは遊び心もあり、スラッピング(弦を強くはじいて鞭のような音をさせたり、指板を叩いたりしてリズムを出す)でソロをとったり、コーラスの間で煽ったりしています。これにはジャンゴもよく反応しており、気に入っていた様子が音源から聞かれます。
 ここで、話題をホット倶楽部全体の音楽に戻します。素朴な疑問があるのです。何故リズムギターが2人なのでしょうか。音源を聴くと2人とも同じ事をやっているのです1人でもいいのではないか・・。私見ですが、「リズム」を音楽成立の第一に置いたのではないでしょうか。1人では音量が足りない。ベースとリズムギター(ポンプ)で曲の構成とリズムをまず確定し、ソロが自由奔放に展開する。あたりまえの事ですがこれに徹底したのではないでしょうか。人間の肉体は、何もしなくてもリズムに支配されています。例えば、心臓は(不整脈でないかぎり)一定のリズムで動きますし、頭がガンガンする時も、そのガンガンも一定のリズムです。つまり、人間は生理的に快いリズムに反応するように出来ているのです。快いリズム+美しいインプロビゼーション。聴衆を魅了してやまないのが分かる気がします。
 私は今、ジャンゴを研究するバンドでベースを弾いていますが、以上の様な事を踏まえ色々と試し、研鑚していきたいと考えています。将来的にはガット弦も試そうと思っています。
   2002・12・23     The Swing Niglots   北島  健次
・コラム
The Swing Niglots 北島 健次

ジャンゴ・ミュージックのベースを弾こう
(不思議なこと)
 ジャンゴの音楽を研究し、演奏するバンドでベースを弾いて月日がたちましたがいまだに、この音楽の専門ベーシストにお会いできません。聞くと、必要がある時にジャズのベーシストを頼んで「嫌々」やってもらっているんだそうです。何という事か。私などは、過去数十年この手のバンドのベースを弾きたくてうずうずしていました。 今、ジャンゴ仲間の輪が拡がるなか、ベースをやろうか悩んでいる人のため以下の駄文を書くことにしました。

?ベースを弾こうか・・・
 ウッドベース・コントラバス(以下ベース)という楽器を選ぶとき、1つ目のハードルがあります。楽器の大きさです。おそらく持ち歩く楽器の中では最大でしょう。一般に使われている4/4サイズ(実は一般に4/4サイズと言われている楽器は昔の3/4サイズで、本当の4/4サイズはもっと大きいのです)で、全高180センチ強弦長1メートル4〜6センチ、ボディの長さ1メートル前後、重さ約10キログラム位つまり、小さな箪笥をかかえて歩いていると思えばいいでしょう。しかし、ベースは箪笥ではなく楽器ですからぶつければすぐ壊れます。最悪なのは倒した時で、自重で必ず重大な破損に繋がります。楽器から離れるときは寝かせて置きます(このときはG弦を下にするという事ですがいまだに理由が分かりません)つまり一言で言えば扱いがかなり面倒だと言うことです。運ぶときは紐が肩に食い込みます。前を、ただでさえ軽いセルマーギターを軽いナイロンのケースに入れて歩いているバンドリーダーに腹を立てないだけの人間的度量も必要です。

?楽器を入手する
 2つ目のハードル。ベースという楽器は大変高価です。外国製の全単板の普通のクラスで大体100万円前後でしょうか。カスタムやヴィンテージは天井知らずです。こういう楽器は音も「グーン」という、いわゆるスピラコアサウンドで、シビれますがジプジャズには向かないような感じがします。負け惜しみで言うわけではありませんがアコースティックの鳴りの要素は、サイド・バックはしっかりと作り、トップは軽く薄くですから、トップのみ単板の楽器で充分だと思います。(これにはサウンド的な理由もあるので後述します)楽器を選ぶ段階で迷ったら、トップの板がいかにも空気を含んでいて、軽そうなもの。駒をたたいて鋭い大きな音のするもの。弦を軽く撫でて弦があまり振動していない状態で一番大きな音のするものを選ぶと良いと思います。日本製で、トップのみ単板で20〜40万円くらいでしょうか。中古市場を細かくチェックするのもよいと思います。今、巷で中国製の安価なベースが売られていますが、結節部の接着剤が必要以上に使われていて、壊れた時修復が難しい他、いろいろな理由でお勧めしません。

?楽器をチューンする
 新品の楽器は、弓弾き仕様で出荷されるのが普通です。したがって、弦高も高め駒もかなりアールがついています。ジャズの人は駒を削って弦高を低くしていますが私の場合、最終的にガット弦を使いたいので、若干高めにチューンしています。代表的なジャンゴの曲の音源でヴォラが弾いているガット弦のベースは雰囲気にとても合っている気がします。音も、頭が強く、打楽器のない構成のジプジャズではリズム取りに大変有利と思っています。最近録音されたビレリやロマーヌのCDではギターの音はジャンゴの血を感じる、枯れた、埃っぽい音ですが、なぜかベースはかなりモダンで、そのままピアノトリオで弾いても不自然でないような音です。それはそれなりにカッコイイとは思いますが、個人的にはなぜかしっくり来ません。ジプジャズは雰囲気の音楽ですから、そのへんはこだわっていきたいと思っています。ガット弦は高価で(1セット3〜7万円)1年程しかもちませんから、今は、ラベラのスーパーニールというナイロン弦を使っています。これでも、かなり雰囲気は出ます。楽器自体も、トップの薄いものがガットやナイロンに合っている気がします。安価なトップのみ単板のベースは、トップを削りださず、薄い単板にプレスをかけて作るのでガット弦の音は出しやすい感じがしています。(もちろん、削りだし単板で、使い込んだオールド楽器でもイイ音を出しますが、そういう楽器にめぐり逢うのが大変なのです)

?バンドでベースを弾く
 楽器も入手し、バンドも出来ました。さて、どういう風に弾いたらいいか・・。 前述したルイ・ヴォラはホットクラブのベーシストとして知られていますが、彼はアコーディオン奏者で、楽団の運営者でもあったことから、アンサンブル、リズムにはこだわりが見られ、ベースもアンサンブル・リズム重視の、とてもシンプルなものでお手本としては最高だと思います。ときおり見せるスリリングなスラップベースソロ、それに、何よりもエスプリの効いた明るい演奏は大変魅力的なものです。(マイナースィングの前奏のプーンと1弦をスライドさせるあれは、メンバーをズッコケさせるためわざとやったといまだに思っています)
最初はコピーしてみるといいと思います。そうすると音使いのクセが分かってくるのでそれらしく弾けるようになってきます。もちろん自分の工夫も織り込んで弾いて下さいコピーだけの人生は面白くありません。
ヴォラのベースのクセの1例を示します。たとえば、B♭4つ-F4つの2小節があったとすると、それを2ビートでカバーした場合、B♭・F・B♭F-F・C・F・Cと弾くのが普通ですが、ほとんどの場合 B♭・F・B♭・F-low)C・F・(low)C・Fと弾く感じです。そして、合間に1弦の上のほうでポンポンと(すりきれたガット弦の音で)経過音を入れてくるのですが、これがまたいいのです。ウォシュタブベースの様な音ですね。2ビートというのは簡単に見えますが、やってみると結構大変なのです。特にミディアム以下の遅いテンポは息を止めて弾くような感じになります。しかし、ベースは、リズムの要なので、とにもかくにもリズムはキープしたいものです。

?ジャンゴ・ジプシーミュージックを楽しむ
 ジャンゴといわず、どんな音楽でも「楽しむ」ことが第一でしょう。自分が楽しめばそれがメンバーに波及し、メンバーが楽しめば、それが聴衆に波及していく。バンドが受ければもっとうまくなろうと思う。音源を良く聴き、たまにはベースだけではなくギターなども弾いて曲のエッセンスを吸収し、フレーズを工夫したりするのもまた楽しいものです。ギターの3〜6弦はベースの1オクターブ上なのだから・・・
 あるベース奏者が言っていました。「僕はバンドではベースを弾くのが一番楽しいんだ。だってみんなの音が聴けるからね」(その人はあらゆる楽器に堪能です)
 ご機嫌なジプジャズベーシストが沢山出現することを期待します。>